ふがいない僕は空を見た

「よるのふくらみ」というなんとも意味深なタイトルの本の書評を新聞で読んだ。そして、そのままその新刊を読めばいいのに、デビュー作の「ふがいない僕は空を見た」「クラウドクラスターを愛する方法」、そして「晴天の迷いクジラ」を読んでいる途中である。「ふがいない‥」に登場する母親は助産師だったし、「クラウド‥」の主人公はイラストレーター、そして「晴天の‥」の最初の主人公はグラフィックデザイナーだ。著者がフリーライター出身だからか、助産師以外は身近な職業が登場する。そして、その人物描写もごく普通の、そして悩みや迷いを抱えたごく普通の人々の話。それは高校生だったり、24歳の不妊に悩む専業主婦だったり、学校の教師だったりするけれど、その心の描写が切なく、悲しい。人は孤独で弱いので、ふと何かのきっかけで事件を起こしたり、病気になったりする。人を想う気持ちは沢山あるのに、どうしてもうまく伝わらない。仕事や生活に追われていることも一つの理由だろうし、愛情を受けることに慣れていないのも原因かもしれない。そういう普通の人の日常や迷いを、丁寧に描写していく視点がすごい。心をぎゅっと掴まれて、物悲しい気分になる。どれを読んでも、その切なさのトーンが変わらない。

「夕焼けではちみつ色に染まった空を、橋の真ん中に突っ立ってばかみたいにながめていた。ここから落ちたら死ねるかなと思いながら、よろよろと松葉杖をつきながら、二学期の始業式に出かけるおれの姿が浮かんだ」