身の上話

NHKでドラマが放映されるようになって、原作本に興味がわき、図書館に予約を入れておいたら、すぐに取り置きメールが来たので、その日から読み始めた。22歳の、海辺の田舎町にある書店員ミチルの話。ドラマタイトルは「書店員ミチルの身の上話」。きっかけは、ほんの小さないたずら心。月に一度、東京から出版社の営業としてやってくる男を駅まで見送るつもりで仕事を抜け出したのに、「じゃあ、また来月ね」が、「来月はお盆休みだから、今度は秋だね」の相手の一言から、そのまま飛行機に乗って東京まで着いて行ってしまう。歯が痛いので、歯医者に行きたいと言って出てきたまま、宝くじを買うおつかいだけを頼まれて、ミチルはそのまま何年もあちこちを彷徨う運命となる。いかにもありがちな日常と、まったくありがちではない宝くじの高額当選。守れると思って、いつも肌身離さず身に着けていたリュックサックの中の秘密も、それはいとも当然に周囲に知られていて、自分への好意を安易に利用していた幼馴染の報いか、当然の因果か、一つ狂った歯車は、どんどん不幸への階段を転がり落ちていく、という中盤からはあれよあれよの展開となっていく。サスペンスの内容も、殺しのための殺しというより、ストーリーに無理はなく、手練れた文章ゆえに、最後まで飽きさせずに読者を連れていく。最初から語り手として登場するミチルの夫が、なぜ妻のストーリーを語っているのか、その理由も最後の1ページまでわからない。2億円の宝くじ当選者が必ずしも幸福な人生を送れない、というお定まりの内容ではないのだが、そのあまりにもお粗末なその場その場の選択によって、結局は身を滅ぼしてしまう、という内容だ。ミチルの人生はあまりにも愚かで、悲しい。そして、この小説で一番リアリティがある人物が、職場の同僚、安藤サクラ演じる初山である。そして、安藤サクラも、ものすごく上手い。